霞と側杖を食らう

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野球科学シンポジウム2019の後日譚々

はじめに

偶然twitterに情報が流れてきた結果、 野球科学シンポジウム2019@駒場キャンパス に参加してきました。

公式の概要を引用すると、

【概要】 近年のトップレベルの野球にはデータサイエンス、情報科学神経科学などの最新科学が導入されようとしています。計測技術の目覚ましい発展により、アスリートのプレー中の動きや生体情報、ボールの軌道などを自動的かつ包括的に計測することが可能になり、それらのデータからいかに有用な価値を生み出すかが次に問われることになります。
本シンポジウムでは、野球に関する研究を行っている国内の研究者と、本学の特任研究員でもある桑田真澄さんをお迎えし、最新の研究成果を紹介するとともに、これからのスポーツの楽しみ方、スポーツ科学の未来について考えます。

どの発表も面白かったので、そのメモ書きを以下に載せます。メモ書き程度で読みにくいところもありますが。

セッションI

野球のコントロールについて
座長 : 小川哲也

野球選手のコントロール : 運動のばらつきとその制御

発表者 : 進矢正宏

Motor control (運動制御)
脳は筋肉を制御するためにある
The real reason for brains (TED talk)
by Daniel wolpert

運動制御にはノイズの問題、冗長性の問題、様々なレベル(意思決定~筋活動・関節運動)

  • 筋活動共同・タイミング
  • 関節トルク
  • リリース位置、速度回転

狙った位置に投げられる能力、つまり誤差が小さい。問い。

  1. 投球動作における誤差はどのくらい?
  2. 誤差を小さくするにはどうする?

投球位置は二次元。しかし、縦と横だけでない。傾きも見る。
ばらつきが楕円になる。
分散共分散構造を考えると共分散が出てくる。それと同様。
データを取ってみると、右に傾く楕円と左に傾く楕円が出てくる。
(楕円の中心は捕手が構えた位置を0として、各点はそれとの差分)

楕円の長い辺と短い辺の大きさを高校生とプロで確認。
ばらつきの向きを見ると、ど真ん中に入ってしまうタイプとそうでないタイプでリスクの大きさ。その傾きはどう決まる。

長軸方向の誤差は、腕振りの角度で決定。右投げ左投げ、オーバースローアンダースロー
プロでも楕円状にばらつく。キャッチャーの構えと実際の位置。

リーチング。
方向と振幅が異なるメカニズムに制御される。
同心円状に配置すると、動きから発生するミスタイプに対して頑健。
電卓イメージ。

投球の長軸方向と短軸方向の誤差のメカニズムは異なる。
プロ投手では長軸ではなく短軸に差が出てくる。

中枢神経系はばらつきを制御している。

ランナーありで、誤差が小さくなる投手もいた。菅野。

認知バイアスの存在で、自分で認識するのは難しい。

  • 過小バイアス
  • 等方向バイアス

投球学習実験(素人の非利き手投)
どうやってコントロールが上手くなるのかを調べる。
投球課題のための冗長性

正確な課題遂行のための2つの戦略

  • 再現性(同じ結果が出るよう同じことをやる)
  • 協調性(結果が同じになるよう組み合わせ))

リリース変数の再現性は向上(練習すると小さくなる)
協調性の定量はRandomize法。組み合わせがいいとうまくいく。ICRP
投球位置を一定に保つための協調性は確認された。

キネマティック変数の再現性も向上(関節角度)
協調性の定量 : UCM解析。向上には個人差がある。

再現性は練習していけば上昇するが、協調性は個人差がある。
身体全体がどうなっているのかを意識して向上に励むといいかもしれない。

巨人と広島。シーズン防御率。考慮すべき変数は何か。
ばらつきを計算するのにサンプルサイズが必要。 打順、右打者、左打者も考慮しないといけないが、それを考慮すると減ってしまう。
この話は前回spoanaの野球の話とかなりリンクしそう。

個人的クエスチョン
ばらつきが小さい選手は勝ちやすいのか。いい成績を残しやすいのか。
打者目線だと予想しやすい?
キャッチャーの配球が重要になってくる?
ばらつきが大きい人とキャッチャーの相性。 球がばらつくから、捕逸しないキャッチャーの方がいいとか、そういうの聞く。 相性をデータで拾えたら面白いだろうなと。
心理的要因も気になる。

野球投手のコントロールを決定する神経筋要因

発表者 : 小林裕央

テーマ 1. 投球中の筋活動のばらつきとコントロール 2. 投球コントロールの発育発達

1.投球中の筋活動のばらつきとコントロール

リリースの誤差と投球位置。
1度ずれるとキャッチャーのところでは30~40cmのズレ。
投球動作のばらつき制御

投球コントロールがいい投手の特徴
ボールリリースの位置を一定にできるのが良いのか。ばらつきがある方がいいのか。

ダーツには2つのリリース方略がある(これはダーツが的で終わるから野球と)

  1. 軌道の線上の中でリリース位置を決定
  2. 線上関係なく。

野球では。どうコントロールしているか、桑田に聞くと。

  1. 下股・体幹部(大枠の方向))
  2. 腕・指先(微細な調整)

リリースのばらつきは桑田が大きいが、最終的なコントロールが整う。
社会人や高校生でみると、リリースのばらつきが小さいが、最終的にばらつく。

筋活動を見てみる。回旋、軸足制御、リリース制御。
楕円の面積、長軸の長さ、短軸の長さで、ばらつきを評価。

筋肉とばらつきの変数の関係を見る。
回旋系の筋肉の再現性は高いと短軸のばらつきが小さい。
軸足系の筋肉の再現性が高いと長軸のばらつきが大きい。(イメージと逆)
投球腕系の筋肉の再現性が高いと長軸のばらつきが大きい。(イメージと逆)

コントロールがいい投手の特徴。
体幹レベルで再現性が高い。
下腿・上肢レベルはばらつき大きい。ここで微調整をしているのでは。

2.投球コントロールの発育発達

小学生中学生高校生大学と投手のコントロール調査。
球速は上がる。楕円の面積は高校生大学生の方が小さい。
全体としてはそうだが、高校生大学生レベルでコントロールをしている小学生もいる。長軸はそんなに変わらない。やはり短軸が変わってくる。
投球の距離やボールは、普段使っているものでやってもらっている。
なんとなく個人的に思ったのは、年が上がるにつれて、精度の低い人が競争から消えているのではと。パネルデータというか、同一人物の経年データを集めたら面白いように感じた。

セッションII

計測について
座長 : 那須大毅

投手の心拍数と投手動作と制球力の関係(実践環境下での計測)

発表者 : 福田岳洋

DeNAの元投手。

背景
試合で緊張することはよくないことか?

プレッシャーとパフォーマンスの関係。悪化と向上の両方の報告が存在する。
これらの結果は野球だとどうなるのか。
プレッシャーによる1.生理状態変化と2.運動の変化。結果として3.パフォーマンスの変化。
1.心拍数の計測。2.投球動作時間。3.制球力。

練習より試合の方が心拍数が高い。
心拍数が高い要因、いくつか考えるべきかも。

イニングが進むと制球力が落ちる投手。
イニングが進むと心拍数下がり、動作時間増え、投球誤差増える。

イニングが進むと制球力が上がる投手。
イニングが進むと心拍数上がり、動作時間減り、投球誤差下がる。

イニングで制球力があまり変化しない投手。
イニングが進んでも変化しない。

投球動作時間と投球誤差、正の相関。

心拍数と投球動作時間、負の相関。

心拍数と自分の体感時間がどうなるか気になる。
運動の変化と時間知覚の変化。
ピアノの研究も参照している。

運動速度と空間的ばらつきは逆U字型のばらつき。

心拍数はコントロールできるのか。下げる方にコントロールするのは難しい。
試合中と同じ心拍数になるよう、練習中は上げて練習。

スポーツシーンにおけるメンタル状態の包括的計測と推定

発表者 : 井尻哲也

情動の状態は多くの場合、自覚がないことが多い。
オリンピックの陸上選手のスタートを考えると、一瞬の中で、想像の及ばない状態に晒されている。通常の生活の中では起こりえないことが起きている。これを捕まえて評価したい。
1.個人と2.チームと監督、コーチ、集団、3.観客。

ウエラブルな計測機器。服とスマホ。生体反応は他にも。唾液。瞳孔。 心拍数と加速度に着目。
多くの生体反応は運動の影響と心理的な影響の両方によって変化する。

体幹の加速度と心拍数から、心理的要因の心拍数変動を予測モデルで推定。
これはどのようにバリデーションしている?

過去に行った運動は心拍数はどのように影響するか。
加速度と心拍数の時系列グラフから得られる知見。

  1. 心拍数は徐々に大きくなる(過去の運動の影響は蓄積する)
  2. 運動をやめると心拍数は徐々に減少する
  3. 減少の仕方は指数関数的である

心拍推定の概要 : 漏洩積分(Leakly integrator)を利用する
過去15分の加速度データに対して、古いデータほど、指数関数的に影響が減少するように。これを積分して、運動強度を計算。
減衰のスピードは個人差。体力がある人は減少。指数関数のスピードのパラメータλを最適化する。

実際の値と予測値との差分を心理的要因と定義する。
試合のデータと練習のデータのプロット。
野球の個人選手はできたか。

集団を見てみたい。

バスケのチーム選手とコーチのチーム平均で推移を見る。

東大の応援部。
応援指導の観客への影響。

応援部員と観客の相互相関、ラグ0秒で最大。応援指導の影響はあやしいと解釈?
一体となっているとも考えられる。
応援部員と観客の相互相関。
試合展開。最初からダメの試合展開と、最後まで分からない試合展開。
後者は一体となって、動いている。
前者は、ダメになったら、応援部は頑張っているが、観客はついていけない状態。

セッションIII

座長 : 中澤公孝

野球と潜在脳機能

発表者 : 柏野牧夫

変化球はなぜ曲がる?
マグヌス効果。物理としてはそう。
どこを見ているかで変わってくる。
目と脳が関与している部分がある。
軌道計測だけでは捉えられないところがある。
打席のバッターはどう感じたかは捕まえられていない。

変化球はどう投げる?

カーブを投げるとき。
実際の動きとイメージが違う。親指の動き。

イメージと身体の動きがずれている。
悪いわけではない。自身のイメージでよくできている。
ただし、イメージが共有されていない相手に教えるときに、このズレがよくない結果になってしまうことが起きうる。

以上見てきたように潜在脳機能の働きが存在する。
潜在脳機能。implicit brain functions。
無自覚、自動的、高速、大容量。
知覚、運動、意思決定、感情などで重要な働き。

潜在脳機能の解読と調節。
測定、推測、伝達。

イチローとNTTコミュニケーション科学基礎研究所の柏野。動画。

https://www.youtube.com/watch?v=EOOPudmr3ks

スイングは一級品なのに通用しない?

当たらない。タイミング。ソフトボール
フルカウントを想定。速球と遅い球をランダムに投げる。
読みがあるから難しいか。しかし、山田選手はよく打てていた。
タイミング調整能力の指標。
手から離れた瞬間から0.4~0.6秒の間の加速度。腰の回転の速さ。
山田選手と高卒新人選手の比較。後者はスイングは速いが、タイミングが取れていない。
光ったらボタン押す0.2秒。他のケースでも0.1秒を切るのは難しい。
差が出るのは、0.1秒の間か、ピッチングフォームを見分けているのか。
実験では区別がつきにくいフォームでやっている。山田選手はフォームで判断していないと言っているが。。。無自覚か?

VRで、速球フォームと遅い球のフォームもとれているが、出てくる球を入れ替えてみる。打てなくなる。

このアイデアが一番面白くて、もう少し詳細を加えると、優秀な打者が投手の速球とチェンジアップの投げ分けをフォームで判断できてないと言っているんだけど、実際にそうなのか判断するために、投手と球の動きをキャプチャして、速球投げるフォームだけど球の動きはチェンジアップとその反対をVRで打ってもらうってやつ。打者には、フォームと球があべこべになっているものが混ざっていることを教えずに実験していて、あべこべの球は打てる率が下がったというもの。無意識にフォームの変化を捉えて予測していたのだとなるのだけど、現実なら不可能なことをVR使ってやってのけて、炙り出していて、発想の幅が広がった。

一流投手は打者に情報を与えない。球速以上に速く感じる人は情報をギリギリまで与えていないということが考えられる。ダルビッシュの映像。変化球でも同じフォーム。

見かけの指標だけではなく、細かくデータを取るとできることがある。
才能早期発掘にも使える。チェンジアップが打てる選手と打てない選手の違い。 spoanaで聞いたリヴァプールの選手育成の話を思い出す。ユースの選手から食事のデータまで管理しているという話。

どこで差が生まれるのか。その差を埋めることはどうやるか。
ここはまだ分かっていない。

ボールを最後までよく見て打て?

田中浩康
ボールをよく見ていると言っているが、目線がミートする位置に先回りしているところがある。目線の動きを測定。
追従から予測的サッカードへ。
スキルレベルで、その移り変わりのタイミングが違ってくる。
追随精度とサッカードのタイミングと眼球と頭部(身体)の協調が違ってくる。
サッカードの間の情報は基本的には使えない。二軍だと早く移行してしまっている。
視線は頭の動きと眼球の動き。二軍選手は頭が動かなすぎている(これが悪いかどうかは分からないがフィードバックできた)。

微調整はギリギリまでできる。情報をギリギリまで集められるか。

「見る」ということは複雑なこと。背後で複雑な処理をしている。
眼球運動によって断片的サンプリングして、脳で再構成。

個人的には、バドミントンでレシーブするときにどこをどう見るかが気になる。

わからないけどできる人もいる。
わかるとできるようになるかというと、そう簡単ではない。
とはいえ、役立つこともある。

遅延視覚フィードバックを与えて、自律的な気付き。主観と客観を埋めていく。

ボールの重い、軽いは何か。物理的には変わらない。予測とのズレに原因があるのかもしれない。そういった印象につながる可能性が考えられる。

まとめ
視覚運動系、心身相互作用、調節方法の開発、Sports analytics2.0(どうなっているかだけではなく、なぜそうなっているのかまで分かってくるか)と研究を進めて目指している。 SBS。sports brain ilab ntt。

野球科学と実践

発表者 : 桑田真澄

東大スポーツ先端科学研究科。

自分がどのように技術を磨いてきたか。唯一の正解ではない。

キャッチボールの話から、ピッチングの話に移っていく。フィールディングも話す時間があれば。

キャッチボール

  • 声を出す
  • 体の正面で捕る
  • 両手で捕る

と言われてきた。野球の昔からある常識になっている。

  • 盛り上げ、意思疎通
  • 正確に捕球
  • 正確に捕球

と理由があるが、疑問が浮かぶところもある。正解に聞こえるが、言葉に騙されないようにしたい。言葉の定義が人によって違う。意味合い、解釈も人によって違うところもある。
声出して集中できないのでは。距離感が掴みにくいのでは。片手でもいいのでは。

グローブが進化している。昔は正面と両手でやらないとだったが、現在のグローブは形状と素材が変わってきているので、片手でも補球できる。

  1. 足を上げて立つ
  2. 右肩を落とす(ヒップファースト)
  3. 体重移動
  4. 着地・リリース・フォロー

この4つを意識している。それぞれ下に感覚に対応。

  1. 足の裏全体でバランス
  2. 頭を後ろに置いて加速距離が稼げる
  3. 体重移動(股関節に乗せて反対に乗せ換える)
  4. 片足でバランスよく立つ

ステップの位置、左足の置く場所。右足のつま先からかかとまでの間の延長線上に置きたい。力が分散しないように。体重移動の方向とボールの投げる方向。
オープンすぎると肘を痛めやすい。クロスすぎると肩を痛めやすい。

頭の位置がどこにあるか。頭の位置がどこにあるか。 重い部位である頭が一番上にあることを忘れてはならない。
守備が下手な人は前に行き過ぎか後ろにある。
バッティング、ピッチングも同様。

キャッチボールで内と外への投げ分け。
変化球は頂点と落下点を意識して投げている。
キャッチボールから自分の現状を把握することが重要。量ではなく質。

野球の投球動作とバドミントンのスイングの動きは似たところがあるので、バドミントンの動作分析している人のブログとか見るところ変わるかもしれないと思った。
http://kojimayasuhiro.com/jumdobi

他にも、升佑二郎さんがかなりバドミントンの動作分析など書いていて、参考になりそう。
https://www.kenkoudai.ac.jp/modules/waffle0/index.php?t_m=ddcommon_view&id=31&t_dd=waffle0_data1

ピッチング

ピッチャーはマウンドでプレイする。他のポジションは平地。ここが違う。
野手に転向していく人は、マウンドの傾斜に対応することができなかったと考えている。

ピッチャーの目的は、打者を打ち取ること。
つまり、打ちづらい球。野手と投手で投げるときの意識しなくてはいけないことが違う。

リリースの瞬間に身体の力を効率よく球に伝える。再現性と身体全体の協調。これらが重要。

キャッチボールとほとんど同じ。

  1. バランスよく立つ
  2. 右肩を落とす
  3. 体重移動

それぞれ以下に対応。

  1. プレートがある。
  2. これが一番重要
  3. 肘は最後まで高く上げない。

バランスよく立つのはどうすればいいかを探っていくことが重要。捻りやつま先は人それぞれ。

右肩を落とす重要性。ヒップファースト。
右肩を落とせば体重は右股関節に乗る。股関節の重要性。
リリースまで腕を加速させる距離を稼げる。
腕は勝手に振られるような体重移動をする。

日米最高でも400勝、500勝。
ニグロリーグはS.ペイジは2000勝していた。とれるキャッチャーは一人しかいなかった。

右肩を落としたまま体重移動。これは球を隠せることにも意味がある。トップを作ってしまうと球も見えるし、リリースポイントも低くなってしまう。

準備実行反省のサイクルを回してピッチング。
上手い人たちは修正能力がある。練習からできないと本番ではできない。

おわりに

潜在脳機能の話が一番自分に刺さった。バドミントンを自分でやっているとき、相手の潜在脳機能を利用して点数を取ることを考えているところがあるので。無意識をチェックするためにVRを利用して、反実仮想的な実験を行ったのがとても面白いアイデアだと思った。
他の発表も、普段意識していない部分を取り上げていて、もっと話を聞いたりしてみたいものばかりだった。自分の運動に応用してみようと考えています。また、Sports Analyst Meetupがコラボしていったら面白いかななんて思ったりもしてました。以上です。ありがとうございした。