霞と側杖を食らう

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きみの色、テルミン、坂道のアポロン

 山田尚子監督のアニメーション映画『きみの色』を映画館で観てきた。監督の過去作が好きなのもあるが(これは昔書いた記事で触れていた)、音楽を担当している牛尾憲輔も好きなのであった。この二人が組んだのは、『聲の形』、『リズと青い鳥』、『平家物語』に続いて、四作品目なのだそう。アニメーションにおける、リズム感、テンポ感、色味、動きの表現の心地よさがとても良いのだと思う。そういうわけで映画館へ向かったが、今回の『きみの色』でも、その良さをしっかり感じられた。

 映画の舞台は長崎で、キリスト教系の女子校に通う女の子と、その子と(元)同級生の女の子、別の学校の男の子の3人がバンドを組む音楽ものの物語だった。ギター、ベース、ドラムの構成のいわゆるロックでもなく、ジャズでもなく(長崎の音楽もののアニメと来て、まず思い浮かんだのは『坂道のアポロン』だったし、バレエ教室でMy Favorite Thingsが流れていたことやライブシーンの生徒の動きから察するに、意識されているとは思う)、エレクトロ系の音楽バンドだった。男の子のルイ君がテルミンを弾いているシーンは痺れた。『天使にラブ・ソングを…』を始めとして、教会と音楽の親和性の高さは昔からあるけれど、日本の文脈だとあまり無かったような気もして、エレクトロ系も合わさって、少し新鮮だった。

 全体として観て良かったとは思ったものの、ひっかかることはいくつかあった。どうやって内緒で退学していたのか、どういう経緯で古本屋でバイトできていたのかなどなど。余計な説明を言葉にしなかったり、描かなかったりしていいけれど、芯の通った説得力はあった方がいいとは思った。不要に気が散って、表現に集中しにくくなる。とはいえ、それらのひっかかりもライブシーンの良さで吹き飛ばされる(『ガールズバンドクライ』もそうだけれど、バンドもののズルさだとは思うが、が)。

 さて、物語としては、3人はそれぞれ何かを抱えているが、バンドという居場所に居ることで快方に向かっていくという、ケアのストーリーだと私には感じられた。このようなケアのストーリーが増えているように思う。もしくは、何年か前に『居るのはつらいよ: ケアとセラピーについての覚書』を読んでから、そういう風な解釈を個人的にやってしまいがちなのかもしれない。ケアの話は、またそのうち、書きたくなったら書こうと思う。

 「神よ、変えることのできないものを~~。変えるべきものを~~。」が何度も登場した。これは、ニーバーの祈りと呼ばれるもののようだ。この祈りは、依存症の克服のための12ステップのプログラムにも採用されている。少し前に依存症について調べていた時期があったので、予想外の繋がりがあって面白かった。あと、ミスチルの新しい曲を久しぶりに聞いて、懐かしい気持ちになった。

 

【追記:2024/09/25】

テルミンが気になって調べてたら、大人の科学マガジンに小さいテルミンが付録としてついているものがあったので買ってみた。