【学習動機】
文章の書き方について、十分理解できて、実践できていると思えたことはない。阿部『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』(https://amzn.to/4eCRrVV)を読んだので、その感想と、個人的に読み書きの基礎を過去にどう身につけたのかについての記録を書く。以下では『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』を「教科書」と表記する。
【学習内容】
「教科書」の第一に良かった点は、ライティングの対象範囲である。「教科書」の本文でも引用されている、戸田山『論文の教室: レポートから卒論まで』は、学部1年の講義の副読本として読んだことがある(2022年に出た最新版ではなく、当時は旧版で読んだ)。このタイトルの副題にもあるように、戸田山本は大学に入った人がレポートや卒論を書くための基本を学ぶのには適していると思う(同じ著者の本の戸田山『科学哲学の冒険 サイエンスの目的と方法をさぐる』も読んだことがあるが、この本もまた初学者に優しいと思った)。一方で、「教科書」の適用範囲は学部生のレポートから本格的な学術論文までとされている。そこまでの範囲で書かれている点はありがたい。
第二に良かった点は、日本語で書かれていて、分量が多くないところである。英語で書かれたアカデミックライティングの本やその訳書(『The Craft of Research』や『A Manual for. Writers of Term Papers, Theses, and Dissertations.』など)はあるが、論文の書き方について最初から日本語で書かれている本はあまり見ない。既出の書籍はそこそこの分量がある一方、「教科書」はページは170ページ程と分厚くなく、パラグラフを意識させるためか、段落間が広く取られており、通読しやすい。
第三に、明快な説明されている点である。論文とは何か、どのようにパラグラフをつくるかが、分かりやすく説明されている。研究への態度の記述も良い。原理編、実践編、発展編、演習編と構成されており(原理編、実践編といった構成は、本文でも引用されている千葉『勉強の哲学 来たるべきバカのために』の踏襲によるものなのか気になった)、原理編で論文はどういうものかを理解し、実践編でどのように書くのかを知り、演習編で著者の研究への姿勢が垣間見れる。演習編は学んだことを試せるようになっている。
個人的に、とりわけ刺さったのは、パラグラフの解析の部分だ。センテンスの抽象度をレベル分けして可視化する、unevenUという方法のアレンジが紹介されている(新海誠が脚本作りの際に作っている、物語の進行と、観客の感情の動きを可視化するグラフを思い出したりもした)。文と文のつなぎを性急にしてしまいがちな自分にとっては試してみたい方法だと思った。文章の分解に関しては、アカデミックライティングではないが、昔読んだ『ベストセラ-小説の書き方』を思い出したりもした。
結論として、「教科書」は、書き方を適切に言語化し、「研究」のスタート地点への道を整備しており、もっと昔に手に取りたかったと思わせられる一冊だった。「教科書」のはじめにの注意点にもあるように、「教科書」で紹介されているのは、人文科学寄りのスタイルである他の分野だと、スタイルは異なり、そっくりそのまま使うことはできないが、センテンスの書き方、パラグラフのつくり方、ライティングの考え方は分野に関わらず非常に参考になると感じた。また、書き方の本であるが、書くことと読むことは表裏一体であり、読む人にも意味のある一冊だろう。
さて、ここからは個人的な記録になる。私が書き方を意識するようになったのは、大学受験のための受験勉強をしていた頃だった。東大文系の受験問題では、今ではどうなのか知らないが、英語で文章の要約、英作文、段落並び替えがあって、世界史では大論述と呼ばれる600字程度の論述問題があり、国語では論説文の最後の問題が120字で全体を見通した問題になっていた。文章を論理的に読んで、論理的に書けるということが大きく問われていたように思う。
論理的な読み書きをどうやって身につけるかは当時の課題だった。賢い人たちはどうやっているのか気になって、東進の東大特進コースが出している合格体験記や、理科三類に受かった人たちの『東大理III 合格の秘訣』を眺めて発見したのが、『FIRST MOVES』や『日本語の作文技術』であった。英語のアカデミックライティングの入門本の『FIRST MOVES』を読んで、英語の先生たちが節々で言っていた読み方が理解できた気がする。本多勝一の『日本語の作文技術』は、日本語で書くときに一文一文をどのように書けば伝わりやすくなるのかを理解できた。さらに、一文一文を正しく読み書きするのに大切なのは、一語一語を正しく使えるようにすることであり、曖昧な言葉があったら、国語辞書や英英辞書を使うように心掛けていた。あとは、読み書きの実践を繰り返していたように思う。
【学習予定】
このようにして、私は読み書きの土台を作った。その後、アカデミックライティングの本や文章レトリックの本などを読んだりもしたが、書く力がまだまだ不足していることは実感している。ここ最近は「編集」という行為についても気になっている。問いの立て方についても模索中である(「教科書」の引用にあった『リサーチのはじめかた: 「きみの問い」を見つけ、育て、伝える方法』と『面白くて刺激的な論文のためのリサーチ・クエスチョンの作り方と育て方: 論文刊行ゲームを超えて』は一通り目を通したが、現在、整理中)。何かまた掴めたら、記録に残していきたい。