【学習動機】
Scott Cunninghamの"Causal Inference: The Mixtape"の和訳本の『因果推論入門〜ミックステープ:基礎から現代的アプローチまで』をご恵投いただきました。
ざっと目を最後まで通したので、書評と言えるほど、たいそうなことは書けないが、読後感を書いていく。
【学習内容】
「DAGとsynthetic control methodも含まれてて、RとStataのコード付きの因果推論本!」というのが読む前の第一感だった。一通り読んでみて、第7章の操作変数や第9章の差分の差デザインが個人的には良かった。操作変数法(IV)も差分の差デザイン(DID)も使う機会が無かったこともあり、ほとんど知識が抜けて落ちているということに加え、とくにDIDはここ数年で整備された感があり、日本語の成書として目を通しやすい形になったという点で良かった。第10章の合成コントロール法も、存在は知っていたが、日本語で成書になっているのは、自分の知る限りでは知らない。もちろん、これから発展しうる分野ではあるが、いざ使うとなったときに、取っ掛かりとして使えそうで良いと思った。第一感通り、RとStataのコードが利用できるというのが良い(内容は難しいところもあるけれど、プログラムを回しながら理解を進めることができる)し、知識の点検と更新に役立った。ざっくりとした読後感を書いたところで、以降、少し詳しく書いていくことにする。
さて、タイトルに「因果推論入門」とあるが、テキストのタイトルあるあるで、「入門」からイメージされる通りにこれを使って0から入門する!というのは少し難しいかもしれないと感じた。p18に対象読者について書いてあるように、「実証分析に興味のある方々」、「研究のツールを一新したいと考えている、経験を積んだ社会科学者」、「産業界やメディア界やメディア、シンクタンクなどに所属する、アカデミア外の方々」が念頭に置かれている。実際、経済学などの社会科学や計量経済学などの計量系分野をかじっていた方が読みやすい本ではあると思う。そういうことを触れてこなかった人は、触れてきた人を誘って輪読するなどするか、p7の訳者まえがき(訳者まえがきがとくに親切な印象だった)にある、計量経済学や因果推論のテキストに紹介されている本やp17,18に書かれている本(こちらは英語)と併読するのが良いと思われる。書かれていなかった和書で追記しておきたいのは、田中先生の『計量経済学の第一歩 実証分析のススメ』で、計量経済学の入門書として読みやすい一冊だと思う。
タイトル関連でもう一つ言うと、「ミックステープ」というのも特徴的だった。p6の訳者まえがきに書かれているように、ミックステープは「さまざまな音源から複数の楽曲を自由に集めて編集した作品」である。p17の本書の存在意義への言及でもあるように、読みやすい入門書がこれまでになかったから、その穴を埋めるように編み上げたものであり、原著者が因果推論の理解の道標として良いと思う構成で作られているように思った。統計学とその周辺は色々な分野に渡って発展しているため、分かりにくい。農学、医学、疫学、心理学、工学、経済学、数学などなど。分野によって、統計の使用の意欲や前提、背景が異なってくる。そういう事情があるので、上手くまとまった良い本があると嬉しいという気持ちには共感した。あと、昔、TSUTAYAや友人からCDを借りて、自分の好きな曲を集めたMDを作成していた頃を少し思い出したりもした(今ではサブスクリプションサービスのプレイリストだが)。
次に、海外のテキストあるあるで、分厚さがある分、日本語で書かれた簡潔なテキスト(講義使用目的で簡略化してあったり、読者への期待が高かったりする)よりも、お気持ちなどが省略されずに書かれていることが多くて良いと感じる。今ある和書では読めないことも書かれており、手法の使用の歴史などといった、単なる手法紹介本だと省略されているか調査されていないような点の記述もあって、ありがたい。加えて、それでも省かれてしまっていて、読みにくい部分については、丁寧に訳注が付いていると思った。読みながら、あれ?これは何を言っているんだ?と躓きかけたところで、訳注に助けられた!というところも多かったように思う。
最後に、参考になりそうなリンクを繋げていくことにする。第一に、原著者本人の、ミックステープのページ。中身が気になる人はこちらを眺めてみるのも良いと思う。
第二に、原著者本人の、youtubeチャンネル。著名な経済学者らとの対談の動画がある。
https://www.youtube.com/@scunning/videos
第三に、篠崎先生の因果推論に関する講義動画。
https://www.icrweb.jp/course/view.php?id=412
https://www.icrweb.jp/course/view.php?id=413
最後に、手前みそになるが過去にブログで書いたものも貼り付けておく。
LaLonde(1986)とその周辺の学習記録 - 霞と側杖を食らう
【学習予定】
一通り軽く読んだので、必要が生じたら、「聞きたい曲」をその都度「聞き直し」ていくということになると思う。計量経済学もちゃんと勉強しなおしたいという思いはあるが、中々腰を据えるのは難しい。
今回の本とは関係のないお気持ちなのだが、統計学とその周辺に関しては、幅広いし、奥深いので、何も分からん!ということに度々陥ることがある。統計学や計量経済学等の計量系分野の素晴らしい先生方が日本にはたくさんいらっしゃるのだから、もっと言語化してテキストを書いてくれたらありがたいのになぁと思うばかりです。